農協・全中という巨大組織
日本で農業を営もうとすると、逆らえない組織が農協・全中という組織。
末端の農家が農協に加入し、その農協を取りまとめて頂点に君臨するのが全中(全国農業協同組合中央会)。
その全中は経済事業のJA全農、共済事業のJA共済連、信用事業の農中(農林中央金庫)・信連などを擁します。
資金量100兆円を超える巨大金融機関の農中も、あくまで農協・全中の一部門でしかありません。
全中のHPによれば正組合員を443万人、準組合員を594万人抱える巨大組織です。
日本人の11人に一人は農協の組合員…

農協の監査費用を税金で賄う?
来年度から末端農協も外部監査が義務化されるが問題は費用負担
その農協を巡り、信じられない記事が7/8付日経新聞朝刊総合面に掲載されました。
農協の外部監査 国が負担?
JAが支援要求、自立遠く
です。
記事によれば、来年度からは公認会計士による外部監査が農協にも義務化されます。
そしてその監査費用を税金で負担するかどうかの論争がなされているというのです。
ご存知の通り上場企業はもちろん、一定規模以上の企業は外部監査を受けることが義務化されています。
当然ながら金融機関も。
現在末端組織の農協に対する監査は、例外的に組織トップの全中や都道府県毎の組織である中央会が担っています。
しかし来年度以降は貯金量200億円以上の農協は外部監査の対象になり、その割合は全体の80%以上。
外部監査を受けるには当然ながら監査費用が必要になりますが、その費用を税金で賄い国民にツケ回そうとしているのです。
あまりにも酷い…
外部監査義務化の背景は監査能力の欠如
そもそも農協に外部監査を義務化する議論が湧いたのは、20年以上前に発生したある金融危機がきっかけ。
それは、住専(住宅金融専門会社)危機です。
住専とは住宅ローンを専門にしたノンバンクで銀行や生保などの別動隊でした。
当初は民間住宅ローンの殆どを担っていたものの銀行本体も低利で住宅ローンに参入したため、徐々に銀行本体では融資が難しい案件などに緩い基準で貸し付けたり、怪しい案件への傾斜などが発生しました。
それがバブル崩壊で延滞が急増し経営が相次いで破綻。
その住専に農協や県単位組織である信連、農中が多額の貸し付けを行っていたことから、法的整理に至れば農林系金融機関が多額の不良債権を抱えることになりました。
そこで問題解決のため公的資金という名の税金が投入されたのです。
要は農協・全中の救済のため税金を使ったのです。
その額、実に6,850億円。
農林系が母体となった住専もありました。
この住専問題を教訓に、外部監査を受けない農林系金融機関の財務健全性が不透明であると認識させられました。
再度農林系金融機関で危機が発生すれば支えきれなくなる可能性もあることから、外部監査が導入されることになったのです。
要は外部監査導入は農協・全中のため。
しかも問題発生から20年以上経過してようやくです。
農協・全中に配慮し過ぎれば政権が支持を失くす
農協・全中は強力な組織票を持っています。
旧民主党が政権をとった際は取り込もうとしたほど。
一方で過度に配慮し過ぎればその他大勢の有権者の支持を失います。
移ろ気ではありますが、その他大勢は農協・全中の組織票よりも圧倒的に数は上。
記事の中に公明党農林水産部会長の発言として、
監査コストはJA(農協)の生きるかどうかの問題(一部改編)
との記載があります。
しかし、農協・全中の金融部門を残すために必要な外部監査費用さえ賄えない組織を守る必要があるかは疑問。
いっそ金融部門をやめればいいのです。
銀行や信金などの地域金融機関が十分に勤めを果たします。
貸付先開拓に苦労している中、喜んで参入するでしょう。
逆に重荷の金融機関をスピンオフできれば、全農など農家を支援する本来の本業に経営資源を集中でき好都合なのではないでしょうか。
各農家にとってもきめ細かい支援を期待できます。
金融部門の人員もスリム化できます。
組織力は弱まるかもしれませんが…
既得権益を守るためでなく競争力を高めて欲しい
キュウリが1本50円、もやしが1袋30円、レタスが1玉100円、美味しいゆめぴりかが5㎏2,000円ちょっとなのは流石に申し訳なく感じます。
消費者は安全で美味しい国産農産物にもっと価値を見出し、お金をかけてもいいと思います。
日本人として農業が高い競争力を持つことには大賛成。
しかし生産性を高め工夫を重ねる農家と、補助金頼みで旧態然とした古い農家が同じように扱われ、結果として競争力が落ちるのは日本として大きな損失。
競争力を高めるために政治に影響力を発揮するならいいのですが、国民の税金を浪費して既得権益を守るためならば支持は得られないでしょう。