地銀が市場で資金を運用するのは厳しい状況
和(なごみ)キャピタル
昨日テレ東のモーサテを見ていたところ、新顔のコメンテーターが出演していました。
和(なごみ)キャピタルという会社の人物。
和キャピタル?
新手の和製ヘッジファンドか?
と思い検索してみると、静岡銀行で運用部門の部長を務めた人物が代表取締役の会社。
元地銀出身者の会社らしく、地域金融機関向けの投資助言と人材育成を柱にしている会社のようです。
検索してヒットした情報から出演者も静岡銀行の運用部門に在籍していた人物のよう。
地銀にキャピタル重視の投資の必要性があるのはわかるけど
番組内の特集では、
①地銀は今までローリスクでインカム重視の市場運用を実施
②最近はストラクチャードモノや私募投信などリスク選好度を高めている
③今後はインカムゲイン重視⇒キャピタルゲイン重視に変える必要がある
などと解説していました。
①、②はその通りなので突っ込みどころはありません。
問題は③。
地銀が国債メインに運用してきたのは理にかなっている
満期保有の国債投資は高度な専門知識不要
地銀などは国債をメインに一旦購入したら満期まで保有するBuy And Holdを基本にしてきました。
保有期間中の相場変動により含み損益は発生しますが、満期まで持てば確実にそれなりの収益を得ることが出来ました。
しかも高度な運用能力も不要。
ここがポイント。
大手銀行と違い地銀をはじめとした地域金融機関は人員が少なく、市場運用に携わる人員的な余裕も限定的。
しかも大手銀行などと違い支店の営業などと頻繁に転勤(異動)をするため、運用スキルを高める時間的余裕は乏しく且つスキルを高めるインセンティブも働きません。
数年で不要になる高度な専門知識をホントにがんばって勉強する人は少数派でしょう。
そのため市場運用に明るくなくてもそれなりの収益を得られ、預貸ギャップを埋められる満期保有前提の国債への投資を運用の中心にするのは理にかなっていたのです。
満期保有勘定にぶち込まずにその他有価証券勘定で保有すれば、ローリング効果で評価益の発生した国債を売って益出しが可能。
複雑な投資商品でなければリスクも限定的、且つ運用に疎い経営陣でもリスクと全体像の把握も可能。
地銀の中でも静岡銀行などの上位行ならばある程度の人員を割くと同時に、運用部門に長期間勤務させることも可能でしょう。
しかし多くの地域金融機関では難しいのではないでしょうか。
マイナス金利政策が地銀の運用体制を窮地に追い込んだ
尤も現在は国債中心の運用が通用しなくなりました。
マイナス金利政策の影響です。
10年長期国債の利回りは0.03%程度。
これでは預金保険料さえ賄えません。
融資が伸びなければ余資を運用しなくてはならない。
しかしリスクが限定的で満足な収益を得られる投資対象がない。
そうなればリスク選考度を高めるしか無い。
しかし運用スキルに長けた人材はいない。
外債などに投資してみたが、トランプ大統領就任以降の長期金利上昇で巨額の含み損を抱えてしまった。
にっちもさっちもいかない状況に、地域金融機関は頭を抱えていることでしょう。
キャピタルゲイン重視の投資に進むも地獄、現状維持も地獄
ここで和キャピタルが推奨するキャピタル重視の運用。
高度な運用能力に長けた人材が不足する地域金融機関への投資助言や、人材育成をメイン事業にしている和キャピタルが本領発揮するとの狙い。
しかし地域金融機関は投資助言を受けても、その助言に内在するリスク・期待収益などを完全に理解できる経営陣がなかなかいません。
また運用現場の人員をトレーニングしてもらっても、直ぐに別部門などに異動させては無意味。
結局、預貸ギャップを埋めつつある程度の収益を望むのであれば、
①経営陣こそ運用のトレーニングを受ける
②運用担当者は異動間隔を長期にして運用スキルを伸ばす
③運用の失敗を許容する覚悟を経営陣が持つ
ことなどが必要でしょう。
リスクを抱えることで進むは地獄。
一方でこれらを諦めることも可能。
しかし預貸ギャップは埋まらずジリ貧。
現状維持も地獄…
ちなみに2017年3月期にはその静岡銀行も外債で370億円の損失を計上して損切り。
和キャピタル代表者が部長時代に作成したポジションかどうかは不明ですけど…
それなりのノウハウのある上位地銀でも運用に苦労する中、規模の小さい金融機関の苦悩は増すばかりでしょう…