農協が農林中金に余資を預金するとボロ儲けなので、農中はその負担に耐えられなくなった

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最強組織の農協・全中

日本では、長年農家の方の生活・事業をサポートする組織として農協(農業協同組合)が大きな役割を果たしてきました。

そもそも農協は農家が加盟する組織であり、その頂点には全中(全国農業協同組合中央会)がでんと存在します。
全中にはその下部組織として、経済事業のJA全農、共済事業のJA共済連、信用事業の農中(農林中央金庫)・信連などがあり、HPによれば正組合員443万人・准組合員594万人を擁する巨大組織です。
農協はこういった組織の末端に位置し、実際に農家の方と接することになります。

農協は、農家が生きていくうえでほとんど全てのサービスを網羅しています。
種や苗・肥料・燃料などを売って農業指導をし、できた作物を引き取り販売する。
お金を預けるJAバンクを設置し貯金を受け入れると共に、トラクターなどの農業用機械の購入を斡旋しその購入代金を融資。
もちろん住宅ローンやアパートローンなども融資。

生保や損保に該当する共済事業を展開。
普段の生活ではAコープを運営しスーパー事業を展開。
その他にも、旅行業や出版業に冠婚葬祭事業などもろもろ。

はっきり言って農家は農協と付き合っていれば、役所以外で他の事業者と関わらなくても生活していけます。
値段が高いか安いかは別にして。

農中が預金負担に耐えられなくなった

JAバンクは運用しきれずにお金が余りまくり

沢山の農協事業の内、銀行にあたるのがJAバンクです。
このJAバンクは各農協が運営しており全国に646もあります。
その上部組織が32団体ある信連。
最上位の全国組織が農中(農林中央金庫)で総資産は100兆円超え、市場運用資産も70兆円超えの巨大金融機関。

その巨大資産を支えるのは末端JAバンクが集めたJA貯金です。
末端JAバンクは貯金額から融資額を差し引いて余ったお金を県信連に預け、または農中に預け、県信連も融資や有価証券投資で使いきれない余裕資金を農中に預けます。
以前と違い、銀行や信金なども農業金融やアパート建築資金など農家向け融資に進出しているので、預貸率は低下傾向。
結果として、直近の数字でJAに預けられた貯金100兆円余りの内、半分以上の59兆円が最上位組織の農中に滞留することになります。

私も社会人になったばかりの頃、JAバンクが農家に融資したアパート建築資金の肩代わり工作を多数行った記憶があります。
当時は今以上に農家と農協の結びつきが強く、単に金利が低いだけでは借り換えてもらえず相当に苦労しましたが…

低金利に耐え切れず農中が奨励金を見直す

農中がJAバンクや信連から受け入れたお金は、もちろんタダで受け入れているわけではありません。
何と年率0.6%もの金利で受け入れているのです。
奨励金と呼ばれています。

ちなみに、JAバンクは各農協が運営しているので建前上はそれぞれ貯金金利が違いますが、マイナス金利政策の下で現在はほぼ同じの様です。
その水準は普通貯金で0.001%、10年までの定期貯金で0.01%とメガバンクや郵貯と同一。

金利水準が異常に低く定期にしてもほぼ変わらないので、普通貯金にしている方が多いと思います。
ということは、JAバンクは貯金を受け入れて農中に預ければ、ノーリスクで0.6%程の儲けを生みます。
実際にはJA版預金保険機構(貯金保険制度)の保険料分はコストになりますが。

しかし、農中はこの負担に耐えられなくなりました。
4/27付日経新聞朝刊一面によれば、

農林中金、預金金利下げ
農協・信連向け
運用依存の転換期待

と題し、来年春から3年かけて現状の0.6%水準から0.1~0.2%ほど引き下げる方針と伝えています。
背に腹は代えられないのでしょうね。

記事では

各農協や信連に独自で運用することや、経営が苦しければ合併などを期待

とありますが、本音はマイナス金利時代に「0.6%という時代に合わない高負担」に耐えられなくなったためです。

年率0.6%の収益確保には大きなリスクが伴う

日証協が公表する売買参考統計値を調べてみると、0.6%の運用益を確保するためには4/26現在で残存22年程の超長期国債(30年)32回債に投資する必要があります。
但し、残存期間が長い債券はそれだけリスクを内包しています。
ご存知の通り金利と債券価格はトレードオフの関係にあり、金利が上昇すると債券価格は下落し債券保有者は含み損を抱えます。
それも、残存期間が長いほど金利変動に対する価格変動リスクは大きくなります。

簡易的にExcelのMduration関数で計算してみます。
この債券を4/26時点で保有した場合に金利が0.1%上昇すると債券価格は1.8%下落。
利回りが0.6%⇒0.7%に0.1%上昇すると、額面100円の国債価格は134.72円⇒132.29円。
1%上昇すれば134.72円⇒110.47円になります。

厳密にはコンベクシティが効くため金利の居所によりこの変化率は都度変わります。
それでも、簡易計算では時価134億円(複利利回り0.6%)で購入した債券の金利が0.1%上昇しただけで2億4千万円あまりの含み損に、1%金利が上昇すれば24億円以上の含み損になります…

巨額の資金を運用し相応にノウハウがある農中でも、いつまで続かかわからないマイナス金利時代に大きなリスクを背負いながら、毎年0.6%の負担を背負うことは困難でしょう。
日銀が実施する異次元金融緩和政策・マイナス金利政策は、自民党の大票田である農協・全中の組織形態まで破壊するきっかけになるかもしれません。

社費留学するなら農中へ就職?

農中のHPを見て驚いたのですが、農中では総合職の10%が社費海外留学でMBAやLLMを取得しているとのこと。
農中のビジネスモデルが今後も存続するかはわかりませんが、会社負担での海外留学を目指すなら高確率です。

やや長くなってしまいましたが、本日もお付き合いいただきありがとうございました。

追記

7/3付読売新聞朝刊も「本件農協から農中への預金金利引き下げ」を報じています。
記事の中には、

全ての農協が金融事業を行う必要性はない

との内容も。
その通りですが、末端農協がその方針を受け入れますかね?

また、TACTA2018年10月号にも特集されています。
はっきり言って、現在の金融環境下ではJAが集める資金は有難迷惑で赤字の元ですから…
農中としては、逆に金利を貰いたいでしょうね。

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