投信保有にはコストがかかる
少額でも多くの銘柄に金額指定で分散投資でき、且つ商品によっては著名なファンドマネージャーが運用するファンドに投資できるなど、投資信託(以下、投信)には多くの利点がありたくさんの投資家が資金を投じています。
今年からスタートしたつみたてNISAはこれまでのNISAと違い投資対象が投信のみ。
尤もその投信を保有するためにはコストがかかります。
入り口として販売手数料(但し、ネット証券を中心に無手数料のノーロード商品が増加中)が必要。
保有している限りかかる信託報酬、商品によっては解約時に残される投資家の保護を目的とした信託財産留保額(新興国を対象とした投信に多い)など。
この内で最も注目されるのは信託報酬。
証券会社のHPによっては信託報酬水準でソートできることもあります。
例えば年率0.20%の違いでも10年運用すれば2.0%、年率1.0%の違いなら10年で10%の違いを生みます。
その他に必要な費用
その他に必要な費用とは?
しかし実際はこの他にも費用がかかります。
それはファンドが銘柄を入れ替える際の売買手数料にはじまり、ファンドが決算をするための監査費用、取引に伴う税金や先物を使った場合の手数料、事務に伴う費用など。
このことは意外に知られていません。
なぜなら投信の目論見書や申込メモには確定している信託報酬水準が記載される一方、実費としてその他にかかる費用に関しては具体的な数値が記載されません。
証券会社のHPで商品を検索する際にも出てきません。
その他費用は目論見書にも「当該費用の合計額、その上限額及び計算方法は、運用状況及び受益者の保有期間等により異なるため、事前に記載することはできません」などと記載されます。
しかしその他費用の水準は馬鹿にできません。
例えば低信託報酬型海外株インデックス投信では、現在の最低レベルの税込信託報酬水準が0.10%強。
一方でその他費用もほぼ同レベルになるとみられるから。
実際に必要な総費用を推計する
信託報酬は予め開示されているので問題になるのはその他費用。
前記の通り事前に公表されません。
そこで過去の実績を参考にします。
公募投信では決算を終えると運用報告書が公開されますのでその数値を参考にします。
但しその他費用は相場や純資産額の変動などの運用環境により変動するので、できれば数期分を確認することをおススメします。
そうすれば特殊要因を除いた全体像が見えてきます。
モーニングスターのHPで個別の投信を表示させるとコストという欄に表示されものの、更新が遅いのでやはり運用報告書で確認することをおススメします。
その他コスト推計の例
ここでは代表的な低信託報酬型インデックス投信であるニッセイアセットの<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンドでみてみます。
ちなみにこの商品の直近の信託報酬は税込0.20412%であり、2018年2月7日現在の純資産額は785億円です。
商品を設定してから順調に純資産額を増加させてきているため、その他費用・信託報酬共に水準が低下していることが見て取れます。
総費用率は2年で年率0.242%も低下しています。
特に販社(証券社等)・委託者(ニッセイアセット)・受託者(信託銀行)が受け取る信託報酬は規模の利益が大きく寄与するため、ファンドが大型化すればするほど投信保有者には有利に働きます。
バンガードなどの超大型ファンドが定期的に信託報酬水準を引き下げているのは、順調に純資産額を増やしているため。
一方でファンドの人気が低迷し純資産額が減少すると、信託報酬は(購入者の目に留まりやすいため)他商品との競争上なかなか引き上げることが困難なものの、実費であるその他費用は容赦なく計上。
そのため不人気化しているファンドからは資金が引き上げられ、更にその他費用負担率が増すという悪循環にハマっていきます。
ファンドの種類によるその他費用水準の癖
アクティブ型投信はインデックス型投信と比較し売買頻度が多い傾向があり、売買手数料が膨らみやすくその他費用も大きくなりがち。
新興国市場を対象にしたファンドでは株式などの売買手数料水準が十分に自由化されていないことが多く、先進国市場を対象としたファンドよりもその他費用が大きくなりがちです。
過去実績が少ない・無い投信の場合
ベビーファンドとマザーファンド
設定後数年程度経過しているファンドはその他費用・純資産額の推移を確認できますが、問題は設定後間もない・設定後未だ決算を通過していないファンド。
その場合はどうするのか?
ここでカギになるのはベビーファンドとマザーファンドです。
同じマザーファンドに投資している別のベビーファンドの投信を参考にするのです。
同じマザーファンドに投資する異なる商品の例
資金の流れを図にすると下記の様になります。
ちなみに商品は三菱UFJ国際投信のeMAXIS Slim先進国株式インデックス。
私も今年に入り乗り換えた商品。

出典:三菱UFJ国際投信
そして名前が似ている(Slim表示の無い)eMAXIS 先進国株式インデックスでは下記の様になります。出典:三菱UFJ国際投信
違いはベビーファンドの名前だけ。
要は全く同じ投資対象に投資しながら、商品名・信託報酬水準が違うだけ。
どうしてこんなことになったかと言えば、ネット専用に価格競争力のある商品を作る必要が後から発生したからです。
合算した図で表せば以下の通りとなります。
テーマ型やアクティブ型のファンドでこれほど分かり易い商品は無いでしょう。
しかしインデックス型のように似たような投資対象に資金を投じる商品を比較する際はこういったことも起こり得ます。
こういったケースの場合、ベビーファンドの純資産規模が小さい投信は大きい投信よりも監査費用率が高くなる可能性があります。
なぜなら監査を伴う決算はベビーファンド毎に行うため。
しかし売買手数料率などは個別に市場で売買するよりも低く抑えられ有利。
結果としてその他費用率全体としてみれば、純資産額の大きいファンドのその他費用率水準を参考にすることが可能です。
類似例が少ない新しいテーマ型投信やアクティブ型投信
テーマ型やアクティブ型の場合、決算を通過しなければその他費用の詳細は分からないことが多くなります。
しかしそこは考え方を変えてみたらどうでしょうか?
過去、テーマ型商品が発売されるとそのテーマは終了するサインだったことが少なくありません。
そこでこの際テーマ型投信は投資対象から外す。
またアクティブ型投信も安定してベンチマークをアウトパフォームすることは困難。
設定後ある程度経過してパフォーマンスとその他コストの水準を確認できる商品のみ投資対象とするなど。
それでもどうしても新しいテーマ型投信やアクティブ型投信を購入したい場合は手数料水準には目をつぶる…
運用報告書チェックのススメ
今回取り上げたその他費用はやっかい。
雑誌やネットの紹介記事などをはじめ投信のコストと言えば信託報酬とみなされて比較される一方、その他費用まで含めて比較している特集は殆どなし。
ネット証券のHPなどで投信の検索をする場合、信託報酬水準の低い順にソートすることは可能な一方、その他費用まで含めてソートすることはできず。
ここ1~2年で各社が信託報酬水準の引き下げ競争を行うようになり徐々に引き下げ余地が少なくなる一方、その他費用は各社・各商品でかなりのバラツキがあります。
インデックス型を中心に投資対象を絞り込む際は、ぜひ運用報告書で過去のその他費用と純資産額の水準を確認することをおススメします。
長くなりましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。